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日本の造血器腫瘍領域における「Whole Person Health」アプローチの実装に向けて

Avalere Health Japan, Chief Scientific Officer 佐藤英昭氏とのQ&A | June 12, 2026

日本は、造血器腫瘍領域の治療薬を開発するバイオ医薬品の製薬企業にとって独特な市場環境を有しています。高齢化が進む患者集団、高度に整備された保険・償還制度、そして急速に進展するPrecision Medicineが共存する環境下で、大きな機会と同時に現実的な課題も明らかになってきました。

今回、Avalere Health JapanのChief Scientific Officerであり、日本市場におけるMedical Strategyのスペシャリストである佐藤英昭氏に、日本の造血器腫瘍領域で新製品の上市を準備する企業に有用となる情報について伺いました。

この10年間で日本の造血器腫瘍の治療は大きく進歩しました。その変化はPatient Journeyにどのような影響を与えていますか?

その変化は非常に大きいです。かつて難治・再発の造血器腫瘍は、致命的な疾患と考えられていました。しかし、治療の進歩によって、その現実は少しずつ変化を見せています。

現在では、分子標的薬、抗体製剤、二重特異性抗体、CAR-T細胞療法など、多様な治療選択肢が利用可能となり、治療ラインも大幅に増えてきました。その結果、造血器腫瘍は、患者さんが長く付き合っていく疾患へと変化しつつあります。

これは患者さんにとって非常に前向きな変化ですが、一方で患者さんやご家族に求められる支援の内容も変わってきています。以前は、単に治療を受けられるかどうかが大きな関心事でした。しかし今では、どの治療をどの順番で選択するのか、あるいは将来の選択肢をどう残すのかといった、より複雑な治療戦略を理解しながら病気と向き合っていく必要性が生じています。これは患者さんやご家族にとっては心理的あるいは疾患理解の上での大きな負担となり、患者教育の重要性はこれまで以上に高まっていると考えられます。また、医療従事者にとっても、治療選択肢の目覚ましい進歩を常にフォローし、最適な治療や逐次療法を判断するための支援がこれまで以上に必要となっています。

日本市場で製品を展開する製薬企業にとって、この長期的な疾患マネジメントへの変化はどのような意味を持つのでしょうか?

製薬業界のコミュニケーションは、新製品の承認や発売時に終わるものではなく、むしろそこからが本番です。患者さんには、初回の治療がうまくいかなかったとしても、次の選択肢が存在するということを理解してもらう必要があります。患者さんと医療従事者の双方に届けるべきメッセージは、治療は長い旅路であり、目指すべきは単なる生存だけではなく、より豊かに生きることです。仕事を続けること、家族と時間を過ごすこと、社会とのつながりを維持すること——そうした視点が重要になります。

最近、ある専門医の方から印象的な話を伺いました。がんと診断を受けた直後に仕事を辞めてしまった患者さんがいたのです。その主治医は、その患者さんは治療を受けながら十分に働き続けることができたはずなのに・・・と驚いたそうです。このような誤解は現在でも少なからず存在します。製薬企業は、医療従事者や患者向けコミュニケーションを通じて、こうした認識の改善に貢献できる立場にあります。

 

日本にはほぼ全国民に近い健康診断の制度があります。このことは造血器腫瘍の診断にどのような影響を与えていますか?

日本の健診の文化は大きな強みのひとつです。日本では多くの就労世代が毎年健診を受けており、多くの場合、健康保険組合などの支援によってわずかな自己負担で受診できます。血液検査の異常を症状出現前に発見できる可能性があり、特に倦怠感や貧血など非特異的な症状で始まることの多い造血器腫瘍においては大きな利点となっています。

一方で、診断までのプロセスには依然として課題があります。患者さんは地域のクリニックや一般病院から基幹病院へ紹介され、そこで血液内科医による確定診断が行われます。リンパ腫や多発性骨髄腫などのように症状が明確でない疾患では、初診から確定診断までに時間を要することがあり、その間に病勢が進行することもあります。

 

 

日本で造血器腫瘍の製品を展開する際、Precision Medicineやバイオマーカーに関して企業が理解しておくべき課題は何でしょうか?

この点については、大きく二つの流れを押さえておきたいです。一つ目はコンパニオン診断や遺伝子検査です。日本はこの領域の導入が比較的早かった国です。慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABL検査や、急性骨髄性白血病におけるFLT3検査などは、日本のPrecision Medicineの基盤形成に大きく貢献しました。その結果、バイオマーカーに基づいて治療を選択するという考え方は、日本の血液内科医の間で広く浸透しています。

二つ目は包括的ゲノムプロファイリングです。ここに現在の課題があります。従来、日本の保険償還制度は個別のバイオマーカー検査を前提として設計されていました。一方で、臨床現場ではマルチプレックス検査の必要性が高まっています。しかし、償還制度や実装体制は、進歩するPrecision Medicineの現状に必ずしも十分追いついていません。検査機関や施設によっては、結果が返るまでに数日から数週間を要することもあります。急性骨髄性白血病のような緊急性の高い疾患では、その間に治療開始を決断しなければならないこともあります。その結果、十分なゲノム情報を待たずに治療を開始せざるを得ないケースもあり、後続治療の選択に影響を与える可能性もあります。

製薬企業にとって、これは製品戦略上の重要な示唆を持ちます。特定のバイオマーカーを対象とする薬剤であったとしても、そのバイオマーカーの情報がすべての診療現場で一貫して治療意思決定に組み込まれているとは限りません。特に新しい治療標的では、その認知獲得と行動変容の両面で課題が存在します。

例えばCD20は、ほとんどの血液内科医にとって確立された治療標的です。一方でCD19は、長年B細胞マーカーとして知られていたものの、CAR-T療法や近年のCD19標的抗体治療の登場によって、比較的新たに治療標的としての意義が確立されました。CAR-T実施施設や症例数の多い中核施設ではその重要性は十分認識されていますが、血液内科全体で実臨床に完全に組み込まれているとはまだ言い切れない状況です。

これはPrecision Medicineにおける重要な課題を示しています。革新的な治療法が存在することと、患者さんがその治療にアクセスできることは同義ではありません。新しいバイオマーカーや治療標的が日常診療に十分組み込まれるまでは、最新の治療薬による恩恵を受けられるはずの患者さんが適切なタイミングで特定されない可能性があります。

 

包括的ゲノムプロファイリングへの世界的なアクセスを推進

Avalere Healthは、包括的ゲノムプロファイリングの導入を阻む障壁を克服するための、世界初のグローバルガイドを発表しました。本ガイドは、より多くのがん患者さんがPrecision Medicineの恩恵を受けられるよう支援することを目的としています。

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つまり企業は薬剤だけでなく、検査の促進も同時に働きかける必要があるということでしょうか?

その通りです。まず検査プロセスへの理解を高め、その上でその標的に対して治療した際に期待できる価値を伝えるという順序が重要です。検査の実施を促進することなく製品訴求のみに注力した場合、本来恩恵を受けられるはずの患者さんが期待通りに特定されない可能性があります。

また、政策面の視点も重要です。Precision Medicineが高度化する中で、マルチプレックス検査への適切かつ迅速なアクセスを実現するためには、償還制度と臨床実装体制の双方が継続的に進化していく必要があります。製薬企業は、エビデンス創出や教育支援、そして医療関係者との協働を通じて、ゲノム情報を日常診療に統合していくための理解促進と行動変容に貢献することができると考えています。

 

CAR-Tのような先進的治療へのアクセスには地域差があります。これはどの程度大きな課題でしょうか?

一般的な検査や標準治療については、日本全国で比較的均質な医療アクセスが確保されています。公的医療保険制度による広範なカバーもその背景にあります。しかし、CAR-T療法に関しては事情が異なります。現在、国内のCAR-T細胞療法の認定施設は約80施設に限られており、その多くは都市部に集中しています。そのため、地方在住の患者さんは治療可能な施設へ長距離の移動を余儀なくされる場合があります。

患者さんの負担は、単に検査や診察のために施設を訪れることだけではありません。実際の治療では、都市部の医療機関近隣で長期間入院や滞在が必要になることもあります。その結果、患者さん本人だけでなく、ご家族にも経済的・生活上の大きな負担が生じます。また日本では、一部の海外の医療システムで見られるような、治療施設近隣での宿泊支援などの患者支援インフラが十分に整備されているとは言えません。これは実際に存在するギャップであり、ホテル事業者や患者支援プログラムとの連携など、革新的なパートナーシップによって解決を図る余地もあると考えています。この課題は、医療コミュニケーションに関わるすべてのステークホルダーが建設的な役割を果たせる領域だと考えています。

 

心理的サポートについても課題として挙げられていました。これは日本の腫瘍領域でも認識されているのでしょうか?

認識はされています。しかし、それを十分な規模で提供できる体制はまだ整っていません。治療ラインが増えるにつれ、患者さんが抱える心理的負担も複雑化しています。再発のたびに新たな精神的ストレスが生じ、患者さんやご家族は、病気そのものだけでなく、その先の人生にどのような影響が及ぶのかという問題とも向き合わなければなりません。

しかし、すべての病院にサイコオンコロジスト(精神腫瘍学の専門医)がいるわけではありません。また、すべての血液内科医が心理的支援を提供するためのキャパシティーを有するわけでもありません。看護師についても、患者さんの精神的ニーズを認識し、適切に対応するための教育がさらに求められています。

造血器腫瘍における心理的ケアという考え方自体は新しいものではありません。しかし、それが日常診療に十分組み込まれているとはまだ言えないのが現状です。患者さんを包括的に支援することを考える製薬企業にとってこの領域は重要なテーマですが、ビジネスとして展開するには、心理的ケアと臨床的な成果との関連性を示す証拠も必要になると思われます。

 

日本の造血器腫瘍市場に参入する製薬企業に対して、最も伝えたいメッセージは何でしょうか?

革新的な治療薬を適切な患者さんに届けることは重要です。しかし私が考えるさらに大きな課題は、その実現を支えるヘルスケア・エコシステム全体が十分に機能しているかという点です。日本の医療は現在、より患者中心のナビゲーションモデルへと変わりつつあります。ここでは、治療法が存在するかどうかだけではなく、適切な患者さんが、適切なタイミングで、適切な支援を受けながらその治療にたどり着けるかが問われています。そしてそこで求められているのは、医療従事者、患者さん、そして医療システム全体を同時に視野に入れたコミュニケーション戦略です。

私は、「薬剤」を「薬剤」たらしめているのは「情報」だと考えています。第III相試験の結果、有効性データ、安全性情報、リスクマネジメントプラン――こうした種々の情報をまとうことによって、ひとつの「分子」は現実の医療現場で「治療薬」としての役割を果たすことができます。私たちの仕事、そして製薬企業の仕事は、その情報を必要とする人へ、適切な形で届け、意義深い行動変容へとつなげることでもあります。日本市場においては、医療従事者の行動特性、償還制度、検査体制、患者支援環境などの複雑な要素を理解することが求められます。そうした理解に投資する企業こそが、最も重要な目標――すなわち、その治療によって恩恵を受けられるすべての患者さんへ価値を届けること――を実現できるのではないでしょうか。

 

すべての患者さんに治療の可能性を届ける準備はできていますか?

イノベーションと患者アクセスのギャップを埋めるためには、サイエンス、医療システム、そして社会を深く理解することが不可欠です。そこには、さまざまな障壁や機会が存在し、ときにそれらが複雑に交錯しています。Avalere Healthの造血器腫瘍領域のエキスパートにぜひご相談ください。あなたの治療法の普及を阻む真の課題を明らかにし、競合他社がまだ見出していない新たな機会をともに発見します。

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